レコードって一枚いくらするんだい

レコードコレクターの属性があるひとだったらわかってくれると思うけど、ブックオフって中古の音楽CDはたくさん在庫があるのに、なぜかレコード(アナログ盤)が1枚もないのだ。不要品の買い取りをしてもらいにくる客の中には、聴かなくなったレコードを持ち込むひとだっていっぱいいると思うんだけど、なぜか店頭にはレコードが並んでいない。あれらはいったいどこへ消えてるんだろう? もしかして廃棄されてるんだろうか? これが長年の疑問だった。
もったいぶらずに言うとその疑問はすでに解けていて、実はブックオフが買い取ったレコードはソフトウェア中心の「ブックオフ」ではなくて、ハードウェアを中心に扱う系列店の「ハードオフ」で販売されることになってるのだ。だから、都内にはあまりないかもしれないけれど、千葉、埼玉、茨木あたりに多くあるハードオフに行くと、実はLP、EPともにレコードがごっちゃりとあったりするのだった。
また、ハードオフではレコードはジャンク品扱いなので、プラスチックのコンテナに無造作に放り込んであったりして保存状態は最悪。でも、そのかわり1枚どれでも20円なんていう投げやりな値付けがされていて、クズ盤を愛する身にはうれしいことになっている。何軒か見てまわった体験からいうと、驚くような掘り出し物はまず望めないし、仮にいいものがあっても状態が悪いので(なにしろジャンクだから!)、転売とかそういうことを考えているひとにはまったくお勧めできない。しかし、いい顔オヤジのジャケを見てゲラゲラ笑ったり、ヘンな歌詞を読んでほくそ笑んだりするのがたったの20円でできると思えば、まあ安い娯楽だと言えよう。

で、ずいぶん前だけど、柏のハードオフでこんなレコードを発掘した。

『花泥棒に行きましたね/中村俊男』
現在は中村ブンと名乗って活躍している俳優&シンガーのレコード。これはジャケというより完全にタイトル買い。「行きましたね?」って言われてもなあ。「昨日の深夜0時、公園の花壇であなたを見たという人がいるんですよ!」みたいな。まあ、そういう歌詞じゃないのはわかりきってるけど、いろいろ妄想をかき立てるタイトルではある。
ほいで、買ってから気がついたけど、このレコはB面のタイトルがまた素晴らしいのだった。
『レコードって一枚いくらするんだい』
と、こうだ。素晴らしい。最初意味わかんなかった。誰視点なのかと。てっきりジャケに写ってるブンさん視点で、ブンさんがリスナーに向けて「いくらするんだい?」って聞いてるのかと思った。ところが、ちゃんと歌詞を読んだらぜんぜんそうじゃなかったことがわかった。
ちょっと長くなるけど、一番の歌詞を引用してみよう。

レコードって一枚いくらするんだい
そうかい 六百円もするのかい
お前のレコードが出るなんて
母ちゃんをかついでいるんだろ
だけど それが本当なら
うわついてなんかいちゃ いけないよ
しっかり地面に しっかり地面に 足をつけてね
母ちゃん まだまだ働けるから
十枚ぐらいなら まかしときなよ

そうなのだ。母ちゃん視点だったのだ。歌手になりたくて田舎から上京してきた青年が、やっとデビューにこぎつけた。うれしさのあまり、田舎のおふくろに電話で報告をする。すると、母ちゃんは言ったのだ。「レコードって一枚いくらするんだい」。
そんで二番の歌詞がまたいいんだ。最初の1行だけ引用する。

蓄音機って一台いくらするんだい

泣けますなー!
こんな名盤がやっぱり20円。といっても盤は思いっきり反っていて、しかも傷だらけでとても聴けたもんではない。なので、聴きたいひとはちゃんとCDを買おう!(新譜で)

かあさんの下駄

かあさんの下駄

※註:このCDに『レコードって一枚いくらするんだい』は入ってません。