切手はひと舐め1ピコキュリー(嘘ビア)


『切手でつづる原子力/三島良績』(1983/サンケイ出版)

たしか銀座松屋古書市で手に入れたのだったか。コレクションをテーマにした本には滅法弱いおれが、こんな魅力的なタイトルを見せられたら買わないわけにいかない。何よりも、この本で採り上げられている「原子力切手」という言葉の語感にギョッとさせられる。もちろん、単に原子力をテーマにした図柄の切手だということはわかる。これらの切手が作られた当時、原子力は未来のエネルギーとして人類の期待を一身に背負っていたのだから、切手の題材に選ばれたとしてもなんら不思議はない。でも、やっぱりちょっと舐めたら死にそうな気もするんだよな。

見た感じ、よくある珍奇なコレクション紹介本かと思えるのだが、よく見ると肩書きがすごい。「東大名誉教授」ときて「切手文化会会長」だ。勤勉と道楽がものすごい親密さで共存している。そんじょそこらのコレクター本とはワケが違うのである。

といったようなわけで、本書は東大工学部原子力工学科教授を経て東大名誉教授となった著者が、長年、趣味として集め続けてきた切手の知識をもとに綴った本だ。ただし、切手の世界というのは我々素人(切手を集めていない者)が想像する以上に広大だ。そして本人も言っていることだが、著者の三島氏は「原子力」の専門家ではあっても、「原子力切手」の専門家ではない。そこで、原子力ジャンルの切手ばかりを専門的に収集してきた“溝井雅人氏とそのグループ”(ビル・ヘイリーと彼のコメッツみたいでカッコイイ!)に協力を仰ぎ、原子力的にも、切手的にも、万全の知識を持ち寄って編纂されたのが、この本なのである。

目次をご覧ください。

  • 第1章 アイゼンハワーの提案で始まった平和利用
  • 第2章 潜水艦の原子炉陸へ上がる
  • 第3章 放射線利用はジェットエンジンの検査や品種改良にも
  • 第4章 ノーベル賞級続出の原子物理
  • 第5章 原爆つくるな、世界で監視
  • 第6章 二一世紀のエース高速炉を目ざして
  • 第7章 ゼロから出発、いまや世界のトップ
  • 第8章 原子力切手リストの見方と利用法

いいですなー。著者が原子力の専門家だけあって、原子の性質、核反応と核融合の違い、原子炉の仕組み、そこから得られるエネルギーの平和利用といった難しくなりがちなことが、中学生や高校生レベルでも理解しやすい平易な文体で書かれている。もちろん、あくまでも切手の本であるからして、文中には原子力切手の図版がたっぷり収録されている。

とくに注目すべきなのは最終章だ。「原子力切手リストの見方と利用法」だなんて、これからの自分の人生に1ミリも関係なさそうな事柄が、40ページにわたって延々と掲載されているのだ。これだからマニア本はこたえられん!