繰り返される諸行無常、蘇る性的衝動

表紙を見た限りでは何の変哲もない店舗学の本だから、わざわざおれが買ったりするようなものではないよな……と思われた。ただ、サブタイトルにある「サクラパワーの謎」ってのに引っかかった。しかも表紙の写真が桜の花。

『入りやすい店の秘密 サクラパワーの謎を解明する/馬渕哲、南條恵』
日本経済新聞社/1993)
桜の花の美しさでオブラートにくるんでいるけども、これはもしかして“サクラ”を使って客寄せするテキ屋とか、そういうちょっとヤクザな商売について書かれた本なのかも? と、ひそかに期待して手に取ってみたのだ。
そしたら、商品陳列の工夫がどのように客の購買欲に反映されるのか? とか、店内の棚配置が客の流れにどう影響するのか? とか、店員の接客スタイルは店舗の立地に合わせてどう変化するべきなのか? とか、いちいち「なるほどー!」と感心するようなことが書かれていて、店をやる予定などないのに夢中で読みふけってしまった。これは、店舗学もしくは集客学についての解説書として普通にいい本だったんだな。問題の「サクラパワー」っていうのも、やはりヤラセの客のことではあるんだけど、それはテキヤに限らず一般の商店でも時と場合によって利用する手法だからね。そういうこともちゃんと分析されている。
で、単にいい本というだけなら、ここで採り上げたりするわけがない。蒐集原人がわざわざ紹介するからには、やはりどこかがヘンなのですよ。
●その1 ほとんど全ページに挿し絵が入っている

明快な文章とともに毎ページイラストが入ってるので、著者の言いたいことがとてもわかりやすく伝わる。それはいいことなんだけど、やっぱりヘンだよ。で、そのヘンさがこの本全体に不思議なグルーヴを生み出しているんだな。たぶんこのイラストの上手すぎず、下手すぎず、微妙な感じにトリップ効果があるのだろう。
●その2 性をほのめかすメッセージへの過剰なこだわり
別に風俗じゃなくて、真っ当な飲食店なんかでも少しだけ性的なイメージを採り入れることで集客効果を上げる、というのはよくある手法だと思う。たとえば「アンナミラーズの制服」とかを想像するとわかるよね。それはその通りなんだけど、この本ではそこに異常にこだわっていて、何かというと「これは性をほのめかしているのです」みたいなことを言うんだな。それがやけにおかしい。たとえば煙草屋の話をしていても「かつて『たばこ屋の看板娘』は『性をほのめかす』メッセージをなげかけて男性客を強烈に引き付けました」とか言うわけ。まあ、ないとは言わないけど、こうやってわざわざ書かれると、すっごい違和感がある。

繁盛店では、いれ替わり立ち替わり若い男女の店員を使うことによって、店員自体はまじめに仕事をしているにもかかわらず、強い性的なメッセージを発信することになっています。

えー! 世の中はそういうことに? なって……いるかなあ?
で、筆者はこの提言にかなりの主張があるらしく、全8章構成のうち7章だけを丸々「性をほのめかす店」の分析に費やしている。ここが本書の最大の見所だ。7章はイラストがまたいい。

▲もっと股下測ってほしいからズボンもう一本買おうかなー。

▲ラケット握り、腰を回して、玉を打つ。考えすぎだー!