ま、ちょっと言ってみたかっただけで、実際にやすし師匠はやって来たりしないんだけど、このリズム感はやっぱり何度口にしても気持ちいい。表紙イラストも併せて正真正銘のメガネ本だ。
とにかく眼科医の書いたこの本には古今東西いろんなメガネが紹介されているのだろう。この本を読めばメガネに詳しくなれるに違いない……。そう思って表紙をひらいてみると、
この小著を
嗣子、満の座右に
岸田 武氏の机下に そして
森 文雄氏の御霊前に
捧ぐ
なーんて献辞が書かれている。嗣子って誰だ? 文雄氏って誰だ? おそらく家族や恩師たちの名前だと思うが、妙に写植のサイズがデカくて違和感を覚える。だが、まあいい。文筆が本業でない人が本を出したときには、このように自分賛美の変形として、周辺人物への献辞や謝辞に力が入ってしまうことがよくあるのだ。驚くほどのことじゃない。
で、気をとりなおして本文を読もうとすると、今度は序章代わりの文章「私と眼鏡」が始る。また“自分”か!
ここでは、若き日の著者が太平洋戦争に陸軍軍医として従軍し、戦闘中に入り込んだ湿地帯で身体の一部も同然だったメガネを落としそうになったところを当番兵がすんでのところで拾い上げてくれたという、よくわからないけど心温まるエピソードが綴られる。
で、「私と眼鏡」を読み終えると、続いて「私の眼鏡」が始る。どう違うんだ! こちらでは、著者が眼科医を志すことになった経緯や、いままで使用してきたメガネ遍歴などが赤裸々に語られているのだった。
もう最初の序章ですっかりこの本が気にいってしまったおれなのだが、いざ、本編に入ってからは、そんなにおもしろい要素はない。普通にメガネの歴史や、世界のメガネメーカーの話や、眼球の構造解説などが続く。
ひとつ、コレクター的にグッとくる箇所もある。第五章「眼鏡のある切手」だ。
この著者、実は1958年からしばらくの間、あの密林の聖者と呼ばれたシュヴァイツァー博士(本書ではシュワイツァーと表記)の仕事を手伝っていたすごい人なのだが、勤務先に届いた無数の郵便物から使用済みの切手を集めて、約五千枚のコレクションを形成していた。その中からメガネをかけた人物の切手を選んで紹介しているというわけだ。
さすが、わかってらっしゃる!
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