レコードを若返らせる

 USENやラジオなど放送局から流れてきたレコードは、管理を容易にするためジャケットにシールがべったり貼られていることが多い。これらは貼られてからそれほど間があいてなければ、剥がすのもそう難しいことではない。しかし、10年、20年と時間が経ってしまうと経年劣化でシールの糊が硬化して、容易には剥がれなくなってしまう。

 美品でコレクションすることを重視している人は、そもそもこんな放送局落ちのレコードは買わないかもしれない。だけど、状態にこだわらない人や、再生に影響なければいいというDJのような人は、シール付きレコードも買ってしまうだろう。ぼくもちょいちょい買っている。今日、新宿アルタHMVで買ってきたラフィン・ノーズの『SIXTEEN』もシールレコードだった。

 ラフィンがこのメンバーになったときはすでにCD時代なので、基本的に音源はアナログでは残っていない。ところが、そうしたアナログからCDへ切り替わったばかりの時期というのは、ラジオ局へのプロモーション用にわざわざアナログ盤を作ることがあった。DJにかけてもらうためで、コレクターはこうしたものを「プロモオンリー」「DJコピー」などと呼ぶ。

 この曲は1990年に発表されたもので、それはジャケットに貼られたシールを見ても明らかだ。ということは、このシールは26年前から貼られっぱなし。そらもう糊なんかカッチカチになっていて、ちょっとやそっとじゃ剥がせやしない。特殊なテクを駆使すれば剥がせるのだが、うちには同じような状態のレコが山のようにあるので、いちいち剥がしていたら面倒くさくてしゃーない。

 でも、この『SIXTEEN』はラフィンの中でもとくに好きな曲で、それが公式には存在しないアナログ7インチで手に入ったのだから、ちょっとこの見苦しいシールもなんとかしたい。きれいに剥がしてあげて、レコードをよりよい状態に復元してあげたい。よーし、いっちょうやったるか。

 ひとつめのポイントは、まちがってもシンナーを使うな、ということ。シンナーを使えば糊を溶かせるかもしれないが、同時にジャケのインクも溶かしてしまう。ここで使うべきはジッポーオイル。このオイルが、ブックオフの値札を剥がすのに最適であることは、このブログではクドいほど語ってきた。

 今回相手にするのは20年以上経って硬化した糊だ。そんな奴に対しても、ジッポーオイルは頼もしい。ジッポーオイルはすぐに揮発するので、少しばかりたらしたところで意味がない。火気に注意して、貼り付けられたシールにたっぷり染み込ませる。

 これによって、硬化していた糊もほんの少しだけ軟化する。とはいえ、それを爪で剥がせるほど世の中は甘くない。ここで登場するのが、先日の公開チラシ飲みトークでも紹介した八戸駅吉田屋「小唄寿司」についていた三味線バチである。ぼくはこれを紙やすりで研いで、値札のシール剥がしに活用している。

 このバチを、ジッポーオイルでゆるくなりかけたシールの下に差し込み、絶妙な力加減で剥がしていくのだ。無理に、一回で剥がしきろうとしてはいけない。糊なんて残っていい、印刷に傷がつかなければ。値札なんて破れてもいい、ジャケットさえ破れなければ。

 ゆっくりゆっくり時間をかけ、とりあえず値札だけを除去する。あとには削りそこなった硬い糊が残るだろう。これにまたオイルをかけ、指でゆっくりこすって、やわらくなった表面部分だけを、バチでこそぎ取る。ジャケットに傷をつけないよう、細心の注意を払って。

 そうしてまたオイルをかけ、指でこすって糊を柔らかくする。延々とそれを繰り返す。最終的には、ジャケの表面に糊の痕跡がかすかに残るだけになるだろう。そうしたら、丸めたティッシュにオイルを染み込ませて、最後の拭き取りをする。これで、26年間こびりついていた垢が完璧に除去され、レコードは16歳に若返った。