16 怪しい店と古本珍生相談と無看板営業

2013年6月マ日

 ぼくらが子供の頃、町内に一軒くらいは怪しい店があった。見た目はごく普通の古本屋っぽいんだけど、店の一角にちょっと肌色が目立つ雑誌なんかが置いてあって、子供が近寄ろうとすると店のオババに「そこの本は触んな!」とか怒られる。当然、親たちもその店にはそういうものが置いてあるのを知っているので、常日頃から「あのお店には行っちゃダメよ」と言い聞かせている。でも、子供たちの好奇心はそんなことでは抑えることができないわけで、どうやったらあの一角に手を出せるか、知恵を絞って作戦会議などをする。

 まあ、エロに限らず、親が子供に読ませたくない本というのはたくさんある。だってドリフのコントでさえ「教育に悪い!」と言われた時代だからね。いま「8時だョ!全員集合」のコントを見たって、何が教育に悪いのかわからないくらい健全なことをやっている。ただ、基本的に「全員集合」のコントは、加トちゃんら子供たちが、怖い大人の象徴であるいかりやをギャフンと言わせる構造で出来ているので、大人からすれば子供たちがそれに夢中になられるのは都合が悪かったのだろう。

 で、何が言いたかったかというと、マニタ書房はそういう「ぼくが子供の頃に入りたかった怪しい古本屋」を目指している。ということだ。目指せ、子供の教育に悪いオヤジ。

 

2013年6月ニ日

 仕入れた古本の汚れ落とし用に常備してあるマジックリンのボトルを、作業デスクで倒して大惨事。iMacなのでパソコン本体には被害がなくて幸いだったけれど、キーボードを認識してくれなくなった。おそらくキーの隙間に液体が入ってしまって、内部でショートしてるのだろう。ああ、またキーボードの買い替えか。ぼくはApple原理主義なので仕方ないのだが、Apple純正の周辺機器はいちいち値段が高いので困る。ホンのちょっとしたミスで約15,000円くらいのお金が吹っ飛んでしまった。

 

2013年6月タ日

 昨年の12月、ダウンジャケットの胸元にブックオフの値札シールをつけたまま外出していたという話を書いたが、昨日もまた、同じ失敗をやらかした。石原壮一郎さんの事務所へ遊びに行ったら、やはりそこへ来ていた米光一成さんに「とみさわさん、シャツの背中にブックオフの値札シールが付いてるよ」と笑われてしまった。

▲作業デスクがこんな状態では貼り付くのも無理はない。

2013年6月シ日

 神保町の情報サイト「ナビブラ神保町」で「古本珍生相談」という連載を始めることになった。読者から寄せられたお悩み相談に、ぼくが店内にある本から適当な珍書を選び、そこに書かれている言葉を引用して回答するという、なかなか頭脳のアクロバットを要求される連載である。

 で、本日はそのサイトで使用する素材のため、店の外で人物撮影をする。ぼくが古本屋の象徴であるハタキを持って、いろんな関西ポーズで写真を撮られるのだ。

 というわけで撮影の小道具にハタキが必要なんだけど、いまどきそんなもんどこで買えるのやら……と悩んでたら、普通に家にあった。しかも2本も。

 

2013年6月ヨ日

 最近、マニタ書房の看板の仕組みを変えてはどうだろうか、と考えている。看板の仕組みというか、営業中でも看板を出すのをやめてみようかと思っているのだ。

 開業からはや8ヶ月が経過してだいたいわかってきたのだけれど、うちみたいな店は看板を見てやってきた通りすがりのお客さんは、まず何も買わない。いや、べつに買わずに帰っていただいても全然かまわない。それはお客さんの自由。でも、買う買わない以前に、うちの店の主旨がわからなくて首をひねっているお客さんが案外と多いのだ。

 ご存知のように、マニタ書房はライターとみさわ昭仁の仕事場も兼ねているから、そんな通りすがりのお客さんを誘い込んでまで営業しなくてもいいのではないか? というのが正直な気持ちでもある。そこで、看板を出さずに営業してはどうか、と考えたわけだ。

 看板を出していなければ、まずはマニタ書房を知らない通りすがりの人物の来店は排除できる。では、マニタ書房を知っていて、来店したいお客さんはどうすればいいのか? 看板がないと、いま営業中かどうかは階段で上がっていかないとわからない? それはめんどくさい!

 いや大丈夫。営業中のときは、1階の郵便ポストの上の表札のところに「営業中」のサインを出しておくのだ。そういうシステムに変えたことを、店のアカウントをフォローしてくれている人にだけ教えておけばいいわけだ。

 つまり、ある種の会員制古書店ということになるわけだけど、だからといって一見さんを拒否したいわけじゃない。雑誌やネットの記事なんかでマニタ書房のことを知って、興味を持ってくれた人ならいつでもウェルカムなのだ。

 マニタ書房も、開店当初は神保町の街角で道ゆく人にチラシを配ろうか、などと考えたこともある。さすがにそれはしなかったけれど、ロフトグループにチラシを置かせてもらったり、「TRASH-UP」に広告を出したりもした。

 こうした宣伝活動と、店の看板を出さないことは矛盾しているようだけど、それは“わかっている人達”にだけ認知してもらうためなので、自分の中では矛盾していない。客商売としてはとても傲慢な考え方だとは思うけど、はっきり言って趣味の延長ではじめた店だから、まあ、好きなようにやらせてくださいな。

 ※結局このシステムは採用しませんでした。

 

2013年6月ボ日

 お客様からメールにて「一度、訪問したいのですが平日は18:00頃で終了ですか?」との問い合わせあり。

 これに対して店主は、

「ありがとうございます。だいたいそれぐらいで飲みに行っちゃうんですが、とくに予定が入ってない限り、なるべくご希望の時間まで店を開けておくようにしますよ!」

 と返信。「土日祝日は営業していますか?」との問いにも、

「土曜はなるべく店を開けるようにしています。日曜祝日は娘と遊ぶようにしてるので基本はお休みですが、気まぐれで開けることもあります。いずれにしろ、早めに「○○日の△△時頃に来店希望」と言っていただければ、可能な限り合わせるようにしますよ」と返信。

 営業日、営業時間がいい加減ということは、逆に言えばどうとでも対応できるということだ。もちろん、すでに予定(取材・出張・打合せ・行楽・飲酒など)が入っているときは無理だけど、それ以外ならお客様の希望に柔軟に合わせられるのがマニタ書房のいいところなのだ。