27 尾崎と竹中直人とブッコロールシャツ

2014年5月マ日

 朝イチから八王子まで出かけて、駅の北口、西放射通りユーロードで展開されている古本まつりを見てきた。ここは自分と相性のいい古書市で、いつ来ても何らかの収穫があるのだが、今日は2時間くらいかけてじっくりワゴンを見て回ったが、これといって欲しい本がなかった。そんな日もある。

 ところで、途中、ある古書店が出しているワゴンのうち、およそ半分くらいがすべて尾崎豊に関する本で占められている光景を見た。おそらく熱狂的な尾崎マニアが、ある日ぱたりと熱が冷めてしまったのか、あるいは病気か何かでこの世を去ってしまったのか、その理由は定かではないが、蔵書を処分することになったのだろう。

▲ぼく自身は尾崎は聴かないけど、ロマンポルシェ。の『盗んだバイクで天城越え』は愛聴盤です。

 これは古書市あるあるのひとつで、特別珍しいことではない。過去にも、ブックオフ勝目梓西村寿行の作品がどっさり放出されているという、どえらく濃厚な棚を見たことがある。マッチ(近藤真彦) の切り抜きがびっしりスクラップされたクリアファイルが売られているのを見たときは、大人の階段を登ったのであろう売り主の少女の姿を想像して、微笑ましい気持ちになったものだ。

西村寿行大藪春彦はほぼ全作を読破したけど、勝目梓はちょっとエロっぽすぎて読んでません。

 

2014年5月ニ日

 2000年生まれの娘(つまり、いま14歳)から「おとうさん〈オリコン〉って何? アルバムチャートって何?」と訊かれて、答えに詰まった。

 いや、ぼくの子なのでプレイヤーでレコードを再生しているところは何度も見ているから、アナログレコードというものを知らないわけではない。けれど、レコードセールスとチャートの概念を、いまの時代の子供に説明するのは難しい。音楽情報サイトとしての「オリコン」はいまもあるが、いまどきの音楽好きで、ナタリーではなくわざわざオリコンを見に行く人間はどれほどいるだろう? 

 そもそも「アルバム」という概念すらよくわかっていなかったようで、「アルバムというのはだいたい12曲~15曲ぐらい入っていてね……」と説明したら、「そんなに!」と驚かれた。

 

2014年5月タ日

 今日はマニタ書房の営業は休みにしているが、雑用がいろいろあるのでドアを閉め切って室内で作業に勤しむ。仕入れておいた古本をクリーニングしたり、値付けをしたり、帳簿をつけたり。フリーライター業でも、締め切りが近い原稿の資料を揃えたり、下書きをしたり、請求書を作成したりと、なんだかんだでやるべきことは多い。

 ひとしきり作業を終えたあと、休憩がてら松永豊和の『バクネヤング』を読んでいたら、突然、知らない人がいきなりドア開けて「ここ、どんな本を扱ってるんですか?」と言いながら入ってきた。

 1階に看板を出しておらず、階段の電気も消していたのに、まったく頓着せずに4階まで上がって来て、ノックもしないでいきなりドアを開けるって、どういうことかしら?

 でも、こんなことは初めてじゃない。店を始めてかれこれ2年。これまでにも、営業中を示す看板を出していないのに4階まで上がってきて、店のドアが閉まっている(普段は掛けている「営業中」の札も掛かっていない)にもかかわらず、ドアを開けようとするお客さんは度々やってきた。まあ、そんな場合でも時間に余裕があるときは「15分程度であればどうぞ」といって招き入れてきた。

 ぼくにとって、マニタ書房は店舗であると同時に、自分の仕事場──つまりプライベートスペースでもあるが、お客様からしたら出入り自由な古本屋、という認識の違いがあるのだろう。それは無理もない。この温度差の違いをどうするかは、今後の課題だと言える。

 

2014年5月シ日

 竹中直人は『ぎんざNOW!』の「素人コメディアン道場」に出てきたときから見ていて、大好きなコメディアンの一人である。1984年にはラジカル・ガジベリビンバ・システムの前身であるドラマンスの舞台公演『かわったかたちのいし』も見に行った。

 竹中さん本人は多摩美在学中から映像演出研究会に属し、コメディアンとして芸能界デビュー後も俳優座で役者の道を目指していたほどに映画・演劇が好きな人で、自身が監督を務めた映画『無能の人』と『119』をぼくはとても高く評価している。

 ……のだが、いつしか竹中直人は邦画界において、なんだかウザい存在となってしまった。本来はしっかりとした芝居のできる人だと思うのだが、映画に竹中さんが出てくると、ほぼいつも過剰な道化の役回りを演じていて、ああウザい! と感じてしまうのだ。

 どうしてそうなってしまうのか? それは、本来そういう道化を必要としていないような映画にも出させてしまうからだと思うのだ。『スウィングガールズ』の竹中直人とか、あきらかに要らない役でしょう? あの人のいい意味での破壊力を、ああいう映画の中で安売りしてはいけないよ。

 竹中直人は、かつての『喜劇駅前シリーズ』とか『日本一の○○男シリーズ』のように、何かハマり役を設けてあげれば、日本映画史に残る喜劇役者になるような気がする。竹中さんは『若大将シリーズ』なんかも大好きな人だから、そういう企画をだれか持ちかけてあげればいいのに。

 

2014年5月ヨ日

 神奈川の未踏のブックオフ巡りのついでに、港南台にあるリサイクル書店「ぽんぽん船」に来た。ここは、ブックオフの創業者である坂本孝さんが、この店を見てブックオフの業態を思いついたという、由緒ある古本屋だ。だから、いつかは来なければいけないと思っていた。ブックオフマニアにとっての聖地なのである。

 店内をひと通り見て回り、なるほどと思ったブックオフとの共通点を挙げておく。

 

 ①古書店にしては広くてきれい。

 ②商品もきれいな古本しか置いていない。

 ③値段はだいたい定価の半額と100円均一のものに分かれている。

 ④比率的には圧倒的に100円均一の量が結構多い。

 

 だいたいこんな感じ。店の外観はとくにブッコロール(赤青黄のブックオフトリコロールのこと)に塗られていたりはしなかった。それはまあ当然のことである。

 帰りは、友人と待ち合わせていて稲田堤の天国酒場「たぬきや」に顔を出す。そこで飲んでいたら、居合わせたお客さんの中にすごく気になるシャツを着ている人がいた。勇気を出して話しかけ、顔は出さないという条件付きで写真を撮らせてもらった。

 

▲白いワイシャツの袖が赤青黄のブッコロールという、たまらんデザイン!

 いいなー、ぼくもそんなシャツ着たいなー、と無邪気に褒め称えていたら、そのお客さん曰く、「これ一応ブランドものなので、洒落で買うには高いんですよね」と笑っていた。