2014年6月マ日
昨年でライター生活30年を迎えたため、12月に新宿のロフトプラスワンで「とみさわ昭仁30周年記念トークライブ〈蒐集100万年〉」を開催した。ぼく自身はそれで十分満足したのだが、DJ急行&セラチェン春山コンビが大阪でもやりましょうと言ってくれて、半年後となる6月に大阪での「蒐集100万年 in ロフトプラスワン・ウエスト」の開催となった。まことにありがたいことである。
いつものように新幹線で大阪入り。物販用に著書などをたくさん持ち込んだが、急行&春山コンビの尽力で客入りも良く、おかげさまで完売することもできた。
大阪で一泊し、翌日はレンタカーを借りてのブックオフ巡りだ。ホテルを出発して「東大阪御厨店」「東大阪吉原店」を回り、三重県に入って「三重上野店」。上野ということは伊賀上野、つまり伊賀の里のブックオフである。そして次に向かったのが「滋賀水口店」。そう、甲賀の里のブックオフだ。今回のブックオフ巡りは、伊賀と甲賀という二大忍びの里にあるブックオフをハシゴすることが目的だったのだ。これといった収穫はなかったが、その目的を果たせたので満足度は高い。
そこから名古屋までクルマを飛ばし、名古屋の支店でクルマを返却。伏見地下街にある(当時。現在は移転)「Biblio Mania」さんを初訪問する。こちらの店主は以前マニタ書房に訪ねて来てくださったことがあり、その際にBiblio Maniaがどんな店かを聞いていたので、いつかは来てみたかったのだ。噂通りの特殊古書店ぶりで、大いに楽しませてもらった。
2014年6月ニ日
山梨県の根津記念館まで「イラストレーター杉本一文が描く 横溝正史の世界」を見に行く。
横溝正史との最初の出会いは、中学時代に姉が買ってきた『八つ墓村』だ。それまで推理小説といったらポプラ社の「少年探偵団シリーズ」と、同じくドイルの「ホームズ・シリーズ」を数冊読んだ程度だったので、横溝の本気が詰まった『八つ墓村』には度肝を抜かれた。その後、1976年に『犬神家の一族』が映画化され、その大ヒットと連動して横溝の旧作が次々と角川文庫で復刊された。以後、『本陣殺人事件』『獄門島』『悪魔が来たりて笛を吹く』といった代表作はもちろん、それ以外のタイトルも片っ端から買い集めて読んだ。しまいには『真珠郎』や『貸しボート十三号』にまで手を出し、微妙な気持ちになったものだ。まあ、それくらい杉本一文のイラストには馴染んでいるということだ。
せっかく山梨まで来ているので、当然のごとくブックオフ巡りもしていく。すると、「甲府平和通り店」で『三つ首塔』の旧イラスト版、「20号山梨石和広瀬店」で『悪魔が来たりて笛を吹く』の旧イラスト版を発見した。原則としてマニタ書房では小説を扱わないようにしているが、これも何かの縁だと感じてセドリしておく。
その後も「甲府下石田店」「田富昭和通り店」と回って、最終目的地である「双葉響ヶ丘店」に来てみたら、ちょっと他では見ない感じの外観に驚かされる。
ブックオフは現地まで行かなくても、住所をGoogleマップのストリートビューにかければ、どんな建物かは判明する。だから、全リストから順番に試していけば、ピンポイントで珍物件を知ることができ、それを目指して訪問することもできる。でも、それでは今回のような驚きがなくてつまらない。やはりこういう珍物件は先入観を持たずに現地訪問して、その初見でのインパクトを得るのが大切なのだ。
2014年6月タ日
マニタ書房では、一般的に有名なレア本はあまり扱わず、それより「わかる人にはわかる本」を置くようにしている。その象徴的な商品が『リスを捕って売れ!』だったりするわけだが、じゃあ、うちの店に来て『リスを捕って売れ!』を手に取り「なんだこれ? おもしれー!」と思った人がこの本のために財布を開くかというと、それは別の話であって、まず売れることはない。そんなことは百も承知なのだが、根本敬さん言うところの「でもやるんだよ!」精神で、ぼくはこういう本を仕入れ続けている。
そんなやり方ばかりしているから、商売としてのマニタ書房はほとんど成立していない。開業から2年、いまだ赤字の月の方が多いのにやめずに続けているのは、神保町のこの場所がライター、プランナー、プロコレクターである“とみさわ昭仁”のアンテナショップとして機能しているからだ。
と、本人は達観しているつもりなんですけれど、それでもごくたまに「おっ、その本をチョイスする? さすが、わかってらっしゃる!」と思わされるお客さんが現れましてね。そういうときは「同志発見!」の喜びで、レジを打ちながらもつい声をかけてしまったりするよ。
2014年6月シ日
松本零士先生の著者近影って、初期のコミックスとかを見ると、無地の黒いベレー帽を被った写真に、(印画紙の?)上からホワイトでドクロ(ジョリー・ロジャー)を描いているものがある。ところが、いつの頃からか落描きではなく、実際にドクロが刺繍されたベレーをかぶっている写真に変わるんだよな。
あれは先生本人がオーダーメイドで作ったのか? ファンからの贈り物なのか? はたまた奥様の手作りなのか? その経緯が知りたい。
……という話をTwitterでつぶやいたら、漫画家の後藤羽矢子さんが「女性アシスタントさんの手作りらしい」と教えてくださった。そのアシさんは松本先生のプロダクションを辞めたあとも、先生がお気に入りの帽子だけは作り続けていたそうで、実にいい話である(※のちに商品化もされたことがある)。
2014年6月ヨ日
たとえばの話。
マニタ書房を「営業時間は夜の7時まで」と規定したとする。そして7時が近づいてきて、そろそろ看板を下げようと思っていたところにお客様が来店し、だいたい30分ぐらい滞在されたとしよう。すると、結局7時半まで営業したことになる。
じゃあ、それを見越して6時半の時点で看板を下げてしまうと、その直後に来たお客さんの目には、7時までやってると言っていたマニタ書房が告知よりも30分早く閉まっているように見えてしまうことになる。
閉店時刻ちょうどまでは外に看板を出しておき、どのタイミングでお客様が入店しようとも、閉店5分前になったら「蛍の光」を流してアピールするというのは、路面店なら可能なことだろう。しかし、マニタ書房はビルの4階である。1階の階段前に看板が出ているのを見て4階まで上がってきたお客様に「もう閉店の時間なんです」とは言いづらい(何度か言ってしまったこともある)。
4階の店内に居ながらにして、手元のスイッチで1階の看板が格納されたり、電灯が消えたりするシステムの開発が急がれる。
2014年6月ボ日
天久聖一さんのWeb連載「家庭遺産」に、ぼくの「ブックオフの値札玉」が登録されることになった。実に光栄なことである。
天久さんの仕事はだいたい目を通しているが、いつも感心するのは「もやもやしていた概念を“作品”や“命名”でわかりやすく実体化してくれる」ことだ。それ象徴する企画のひとつが『味写』シリーズであり、ごく普通の人が、ごく普通の日常を、1枚の写真で切り取ったとき、たまさか発生する「おかしみ」を形にしてくれている。そこに付けた「味写」というネーミングも見事だ。
今回の「家庭遺産」もそれに類するもので、どの家にも当たり前にある、ずっと前から存在していて本人たちは無自覚な──他人にはゴミクズにしか見えないもの──の価値を見い出し、それを「遺産」と認定したことが素晴らしい。そして、認定された本人にとってはとてもおこがましくて、なんともくすぐったいのだった。
2014年6月ウ日
映画のパンフレットの話。
ぼくは映画を見ていて、いちばん知りたいのは劇中で使用された音楽が「誰のどの曲か」だ。エンドロールで使用曲のクレジットが流れ始めたら必死で目で追うのだけど、それで目当ての曲を特定できた試しは滅多にない。見る気がないエンドロールは遅く長く感じるものだけど、何かを探しているときのエンドロールは早く短く感じるのだ。ぼく自身に英文字を目で追う習慣がないことも影響しているだろう。
聴き馴染んでいる曲はエンドロールを見るまでもないが、曲だけは知っていてタイトルやアーティストがわからない曲、初めて聴いたがすごく気に入った曲などを特定するのが困難だ。『JOKER』で、あの階段のシーンに使われた曲がゲイリー・グリッターの「Rock and Roll Part II」であることを特定できたときはとても嬉しかった。
若い頃は映画の情報に飢えていたので、劇場で見た映画のパンフレットはいつも買っていた。が、いつしか買わなくなってしまった。値段の割に情報量が薄いからだ。とくに不満なのが「劇中で流れた曲のクレジットを掲載していない」ことである。そこがいちばん大事なのに!
人によっては曲情報よりも、キャスティング情報、スタッフ情報が欲しいという場合もあるだろう。撮影時にどのケータリング業社が使われたか知りたいという人もいるかもしれない。
ともかく、エンドロールで流れる文字情報をそのまま掲載してくれるパンフレットだったら無条件で買うのにな。もしかするとそういうのもあるのかもしれないが、映画のパンフレットは立ち読みができない。必ず載ってるという保証がなければ、そんなもの怖くて買えないよ。