12 忍者と豆盆栽と沖縄ブックオフツアー

2013年2月マ日

 以前にも書いたが、つげ義春無能の人』の「石を売る」は自分の中にとても深く食い込んでいて、ゲームデザイナーとして時代の最先端にある仕事をしていたときから、将来、自分はあそこへ行ってしまうんだろうなあ、という怖れのような気持ちと、それに反する期待感とが半分ずつあった。

 結局、このように古本屋のおやじになっちゃったわけで、ぼくはつげ的世界に半身だけ入ってしまった感じがしている。だーれもこない店内で店番をしていると、助川の「ジュースとか甘酒とか並べてね、ついでに石も置いて多角経営してみようと思う」という才覚のかけらも感じさせないセリフが、頭ん中をグルグル回る。

 マニタ書房も、多角形とまでは言わないが古本の他に中古レコードを置いてみたり、変な雑貨を並べてみたりして、本人は楽しんでいるんだけど、なんだか店として経営方針がブレているような気も、少しだけしている。

 

2013年2月ニ日

 店内に「エマニエル椅子」を置いてみたい衝動に駆られる。しかし、冗談で買うにはあまりにも大きいし、たぶん高い。

 

2013年2月タ日

 仕入れのためにブックオフを回っていると、どこにでもありそうなのに意外とそうでもない本というのが見えてくる。そのひとつが忍者に関する本だ。「忍者」というコーナーを作りたくて、ブックオフ巡りの際にはわりと意識して見ているのだけど、なかなか見つからない。なので、現状ではマニタ書房の在庫には2冊しかなく、暫定的に未分類コーナーに置いている。これが5冊になったら仕切り板を作ろうと思っていたのだけど……、本日2冊とも売れてしまった! 残念だけど、経営者としては喜ぶべきなのかな。

 そうだ、先に仕切り板だけは作って棚に挿しておき、そこに「このジャンルの本を売ってください!」と書いたデコイを並べておくといいのかもしれない。

 

2013年2月シ日

 今日は娘と一緒に千葉県の未踏ブックオフを2軒回ってくる予定。大喜びで同行をせがむ娘に、とみさわ遺伝子が着実に伝承されているのを感じる。

 それにしても、古本屋っていうのはどこの誰とも知らない人の人生を追体験する商売だな、と思う。「どこの誰とも知らない人」というのは本の著者のことではなく、その古本の前の持ち主のことだ。日々、古本に触れていると、前オーナーの過ごしてきた人生に触れてしまう瞬間が多々ある。それをとてもわかりやすく教えてくれているのが、古沢和宏さんの『痕跡本のすすめ』だったりもするわけで、あの本が古本業界に刻んだ功績はとても大きい。

 

2013年2月ヨ日

 少し前にある人がツイッターリツイートしているのを見て、長いことカラーブックスの『豆盆栽』を探している人がいるのを知った。べつにその人から探書を依頼されたわけではないが、まあ古本屋の習性というか、心の隅に残っていた。

 その後、仕入れに行った先の古本屋であっさりと『豆盆栽』を見つけ、安かったのでセドリしておいた。だけど、その探している人は自分がフォローしているわけじゃないし、誰のいつ頃のリツイートだったかもわからず、セドった本を届ける方法がない。

 どうせ売るならやっぱり長いこと探している人に買ってほしいなあとは思うのだけど、相手がわからないんじゃどうしようもない。とりあえず値段を付け、心の中で(いつかその人がマニタ書房のことを知って、店で見つけて感激してくれるといいな……)と思いながら店頭に並べておいた。

 そして今日のことだ。

 フラリとやって来たお客様が、しばらく店内の棚を棚を物色している。カラーブックスが置いてあるコーナーもじっくり見ている。その後、あの『豆盆栽』をレジに差し出してきた。それ1冊だけを。もしや、と思って聞いてみた。

 

「以前、ツイッターで『豆盆栽』を探しているという方がいて……」

「それ、わたしです!」

 

 いやあ、願いというのは届くもんだなあとびっくり。もちろん、お客様はとても喜んで帰っていかれた。古本屋冥利に尽きるというのはこのことだ。

 ※この話には後日談もあるのですが、それはまた後日の日記に書きます。

 

2013年2月ボ日

 札幌ブックオフ巡りをした際に、LCCの航空チケットの安さに味を占めたぼくは、こんどは沖縄へ行くことを計画する。暇にあかせてAir Asiaのサイトを見ていたら、タイミングよくバーゲンで成田~那覇が3,900円というのを見つけた。往復しても7,800円だ。すげえな。

 というわけで2月の下旬に4日間、ぼくは古本の仕入れ旅行を敢行した。

 

 出発した日の東京の気温は、7℃くらい。でも、那覇に着いたら19℃。とても暖かくて過ごしやすい気温だ。着ていったダウンジャケットを脱ぎ、アロハに着替える。

 ホテルにチェックインしたときはすでに日が暮れていたけど、沖縄にいられる時間を無駄にしないよう、すぐにブックオフへ向かう。最初に訪ねたのは「ブックオフ沖縄ひめゆり通り店」で、そこでは7冊購入できた。まずまずの収穫。とはいえ、もうこの時点で夜9時を回っていたので、次の店へ向かう余裕はない。だから飲んじゃうよね。沖縄の夜を楽しんじゃうよね。

 国際通りで見つけた適当な居酒屋でほろ酔いになり、ホテルへの道をぶらぶらと歩いていたら、遅い時間なのにまだやっているレコード屋があった。沖縄音楽のレコードは集めているわけじゃないので、とくに期待もせずに見ていたら、『燃えろ! 闘牛!』という沖縄闘牛のCDを発見した。これはいいものだと即購入。

ここで買えます。

 翌日は、レンタカーを借りて本格的にブックオフ巡りを開始する。まあ本格的にと言っても沖縄には6軒しかブックオフがない(当時)のだけど。この日は一般の古本屋も回る予定なので、ブックオフに行けるのは3軒だけ。

 まずは「ブックオフ宜野湾市店」で8冊購入。次に「ブックオフ那覇小禄店」で6冊購入。じつは「那覇小禄店」は日本最南端のブックオフでもあり、仕入れ以上にここへ来ること自体がこの旅の重要な目的でもあった。

 その後、「ブックオフ那覇与儀店」で13冊購入し、ブックオフ巡りは終了。一旦ホテルへ帰ってクルマを置いて、シャワーを浴びたら再度外出。

 国際通りとその周辺をアッチデモナイ、コッチデモナイとうろつき回って「ゆいま~る」という古本屋さんに辿り着いた。ここではアフリカの獣医の本を1冊購入。他に、あと3軒の古本屋を訪ねてみたのだが、すべて閉業してしまっていた。沖縄でも古本ビジネスは風前の灯なのか。

 

 そして3日目。再びクルマを出して、北へ向かう。途中に未踏のブックオフが2軒残っている、帰りに寄ればいいので通り過ぎる。じゃあどこへ向かっているのかというと、「漢那ダム」だ。そう、ダムカードをもらいにきたのである。

▲以前は熱心に集めていたけど、カラーバリエーションや期間限定などの多さに熱意が冷めて集めるのをやめたダムカード。でも、せっかく沖縄まで来たのだから、1枚くらいは欲しかったのだ。

 さて、ダムを満喫したらトンボ返り。那覇方面へクルマを走らせて「ブックオフ具志川店」へ向かう。ここでは6冊購入したのだが、そのうち大物の収穫が1冊あった。『俺たちには土曜しかない』(1975年/二見書房)である。著者は瓜田吉寿。あの悪のカリスマ、瓜田純士のお父ちゃんである。

 以前も書いたが、こうした暴走族本はいま古本業界では非常に高騰している。そんな本が、ブックオフの105円コーナーで発掘できたんだからたまらない。もちろん、うちも商売だからこれを店頭に並べるときはそこそこの値付をすることにはなる。まあ、古本屋というのはそういうもんだからご理解いただきたい。

 その後、やっと最後の店「ブックオフ コザ店」を訪ねて、沖縄のすべてのブックオフを制覇した。ここでは8冊購入して、トータル49冊を仕入れたことになる。日程的にはあと1日残っているが、もう仕事は終えたので、あとは沖縄の酒場を満喫するだけだ。