06 暴走族本とせんべろ古本トリオと委託販売

2012年8月マ日

 かつて暴走族に関する本の出版ブームがあった。『俺たちには土曜しかない』(二見書房)、『止められるか、俺たちを』(第三書館)、『ザ・暴走族』(第三書館)などなど。ぼくが高校生の頃だから、1979~1980年頃のことだろうか。ぼくが通っていた高校は、まあはっきり言ってBE-BOP-HIGH SCHOOLだったので、クラスの7割くらいは不良もしくは暴走族で、彼らはこぞってそういう暴走族の本を買い求め、憧れの眼差しで見ていた。なんなら地元の先輩とかが載っていたのかもしれない。

 これらの本はけっこうな部数が刷られ、全国的に売れたと思うのだが、これをいま古書店の店頭で見かけることは、ほとんどない。いざ探すと、当時あんなに出回っていたはずの暴走族関連本が、まったく見当たらないのだ。そして、市場に出ないということは、たまに出てくると必然的に高値がつく。たとえば『止められるか、俺たちを』をネットオークションで検索すると、スタート価格が軒並み5,000円以上だったりする。

 つまり、最初の出版ブームから30年以上の時を経て、いまふたたび暴走族本はブームが来ているのだ。

 なんでこんなことになっているかというと、綺麗な状態のモノがほとんど残っていないからだ。暴走族本っていうのは、そもそもが「本を粗末にする人たち」がメインの購買者だったからね。大半は読み捨てられて消えてしまった。わずかに残っているものも、カバーがないのは当たり前。折れや破れだらけのものばかりなのだ。だからカバーがあり、状態の良いものには高値が付く。

 古本屋の店主は、市場で希少になっているものを安く仕入れて、それに適正な価格をつけて売る。これが基本だ。暴走族カルチャーが大好きなぼくは、当然マニタ書房でもそうした本を取り扱いジャンルのひとつとして設けたいのだが、いかんせん仕入れができない。ネットで5,000円で買って、店頭に1万円の値札を付けて並べたところで、誰が買うというのか。

 古物商のオヤジが本当にやるべきことは、すでに価値の定まったものに乗っかって、ほんのちょっとの差額を得ることじゃない。いまはまだ価値がないけれど、これから価値が出るかもしれないジャンルを見つけることだ。ブームを作ることだ。

 それで、ぼくがマニタ書房の開店準備をするにあたり、「暴走族本」の次に来るであろうブームの予測として何にターゲットを絞ったかというと、それは「心霊写真集」だ。これらも、ぼくが小・中学生の頃に大量に出版された一大ジャンルだが、いまはほとんど姿を消している。だが、古本市場にはけっこうたくさん残っていて、しかも、安いのだ。だいたい1冊あたり100円前後で手に入る。

 これはやがてブームが来るに違いない。近いうちきっと再評価されるだろう。そうなったら値が上がる……。

 そう思って、ぼくはいまコツコツと集めている。

 

2012年8月ニ日

 本日は、店内に新たに商品陳列用の棚を2台と、在庫収納ボックスを兼ねた椅子を4台搬入した。この棚は作業テーブルの前に置き、店主イチ押しの本や小物などを陳列するスペースにするつもりだ。

 4台入れた椅子というのは、スナックにある四角いスツールみたいなもので、腰を下ろす部分が蓋になっていて開けると中には物が収納できる。本だったら40~50冊は余裕で入るので、いい在庫置場になりそうだ。

 

2012年8月タ日

「古書」と「古本」とは何が違うんだろうか。

 いちおう業界的には、

 古書:絶版になってからの期間が長く、高値が付いているもの

 古本:絶版かどうかは問わず、比較的新しめの古本

 という分け方はあるようなのだが、そこに明確な線引きはない。古書市に朝から行列するような人はともかく、普通の人にはその違いなんてどうでもいいことだ。しかし、古本狂いの人たちは、どちらの言葉にもつい身体が反応してしまう。それどころか、似たような文字列すら古書や古本に空目して、心をざわつかせてしまうのだ。

 以前、せんべろ古本トリオで古書店巡りツアーをやったとき、日が暮れた夜道に煌々と光る「古着」の看板に、一瞬、駆け寄りそうになって笑ったことがある。「古着」と「古書」では、字面は似てるが全然違う。

 それから、地元松戸市の住宅街を運転していたら、唐突に「ヘアーサロン古本」という看板が目に飛び込んできて、急ブレーキを踏んだこともある。美容室と古本屋さんのハイブリッド? そんな素敵な店があるのか!? と、慌てて空き地に車を停めて看板を確認しに行ったら、古本(ふるもと)さんという人が経営している美容室だった。

少し離れた空き地にクルマを停め、写真におさめた。

2012年8月シ日

 本日のミッションは、店で売るレコード(ドーナツ盤)用の仕切り板の分類ラベルを作ることだ。仕切り板は専用のものがディスクユニオンで普通に売っていたので、必要な数だけ買ってきた。これに分類ラベルを自作して挟み込むのだ。

 マニタ書房では、古本こそ変な品揃えであるのをセールスポイントにしているが、レコードはそこまで変なものが仕入れられるわけではない。というか、仕入れたらぼくが自分のものにしちゃうからね。店頭に並ぶレコードは、基本的にはぼくのコレクションから不要になったものを放出する、というスタイルだ。他の中古レコード屋へ持ち込むよりは少しでも高く売れたらいい、そんな感じ。なので分類はざっくりとした感じで十分。

 まず「洋楽」と「邦楽」に分け、「洋楽」は数が少ないので細分化することはしない。「邦楽」はさらに「男性」と「女性」に分ける。そのうえで、歌手名から探しやすいように「あ行」「い行」「う行」……といったように分類する。こうしたラベルをパソコンで作って印刷し、カッターで切り出してプラスチック製の仕切り板に挟み込めば完成だ。レコ屋みたいで気持ちい。

 

2012年8月ヨ日

 この日は「せんべろ古本トリオ」で、東武東上線を攻めるツアーを敢行した。

 せんべろ古本トリオというのは、アダルトメディア研究家の安田理央さん、特殊翻訳・映画評論家の柳下毅一郎さんと組んでいるユニットだ。それぞれややこしい肩書きが付いているが、簡単に言えば三人ともフリーライターだ。執筆業を営んでいて、古本屋に興味のない人間などいないだろう。もちろんぼくらも無類の古本屋好きだ。そして、大の酒好きでもある。そんな三人が、せんべろ──たった千円でべろべろになるまで酔える(比喩として)酒場に朝から集合し、ターゲットを定めた鉄道沿線の古本屋を巡っては、その合間合間にまた酒場に飛び込み、収穫を見せ合いながら飲む。そんな楽しすぎる遊びだ。

 第5回となる東武東上線ツアーの集合は、池袋の「大都会」。ここは24時間営業している酒の不夜城だ。軽いつまみ1品に酎ハイを2杯だけ飲んでエンジンをかけてから出発。池袋駅から東武東上線に乗る。もちろん、車中でも古本トークに花が咲く。

「かつて東京には古書会館が東西南北に4カ所あったんだよね」

「白虎、朱雀、玄武、青龍みたいなもんか」

「でも、この辺(中板橋近辺)にあった北部古書会館はなくなっちゃった」

「まだ会館自体はあるけど一般公開をしてないんだよ」

「それで四神の均衡が崩れたから魔(ブックオフ)が侵入してきた……」

 とかなんとか、そんなドーデモイイ話をしているうちに大山駅に到着。大山では、まず「ブックマート」を軽くチェックし、続いて「ぶっくめいと」へ。しかし、こちらはまだシャッターが開いていなかった。普段は見られないシャッターにはハムスターと思しきキャラクターが描かれていたのだが、その脇に「え・高野文子」の文字が。これって、あの高野文子だろうか?

この絵のタッチから高野文子さんっぽさは感じられない。

 さらに「銀装堂」を訪問するが、またシャッターが降りていた。2軒続けて閉店はきついな~と思ったが、時刻は10時58分。まだ開店前なのだった。11時の開店とともに入店。ぼくはここで人喰い映画のDVDを1枚購入した。

 続いて「大正堂」へ向かうが、こちらもまたシャッターが降りている。張り紙も何もないので状況がわからないが、営業が始まる気配がないので移動。徒歩で「ブックオフ中板橋駅北口店」へ向かう。ブックオフ好きのぼくとしては期待が高まるが、これといった収穫はなかった。そんなもんだ。

 と、こんな感じで一軒一軒のことを克明に書いているといつまでも終わらない。なので店名だけ一気に書き残しておくと、このあと東武練馬で「ブックランド」「和光書店」、下赤塚で「司書房」「ブックオフ下赤塚駅南口店」、みずほ台で「かすみ書房(閉店)」「古本市場」、上板橋で「ネオ書房」「林屋書店」と訪ねて回った。最後は上板橋の「養老の瀧」で、反省会と称する収穫の見せ合いっこをして解散だ。

 しかし、こうして古本屋巡りをしていると、たびたび「閉店」に直面することがある。そう、古本屋というのは、まちがいなく衰退しつつある業種なのだ。そんな商売を、いまからわざわざ始めようとするぼくは、なんと無謀なのだろう。なんと無計画なのだろう。そして、なんと愉快な人生なのだろう。

 

2012年8月ボ日

 本日は『蒐集原人 4号』の配本をする日で、新宿三丁目の「模索舎」、西新宿の「ビデオマーケット」、中野の「タコシェ」をまわって納品してきた。

 この日記に『蒐集原人』の名前が出るのは初めてなので、少し説明が必要だ。そもそも「蒐集原人」というのは、ぼくがやっているコレクションネタを中心としたブログ(皆さんがいま読んでいるここ)のタイトルで、そこに書き溜めた記事をまとめたのが『蒐集原人 ○号』という小雑誌だ。これを、上記のような自費出版物を扱ってくれているショップに、委託もしくは買い切りで置かせてもらっている。

 自費出版物の取り扱い書店への配本という作業は、その昔『よい子の歌謡曲』のスタッフをやっていたときにも経験している。が、ぼくはこうした事務作業が壊滅的にできない性格なので、とにかく苦労の連続だ。

 本当なら、自分がこれから始めるマニタ書房でも、他社の自費出版物をどんどん受け入れ、委託販売をすれば、店に古本だけの商品構成とは違った活気が生まれることはわかっている。でも、それによって生じる帳簿とか伝票とか売掛金とか、これまで自分の人生とは無縁だった言葉がドカーンとのしかかってくることが怖い。そんな作業を自分がこなせるとは到底思えない。

 だから、マニタ書房は原則として委託販売はしないことにする。唯一受け入れるのは「ぼくが気に入った本」を「頒布価格の7掛け」で「こちらの指定した冊数を買い取れる」ときだけだ。